それから、どうしたらお客様が気持ちよく最後まで召し上がれるんだろうと試行錯誤の日々が続きました。ある日、東京のほうで"焼きしゃぶしゃぶ"という食べ方でやっているお店があると聞き、そのためだけに出張しました。店はしゃぶしゃぶやすき焼きがメインのようで、見るからに高級店という雰囲気です。
大変期待してオーダーすると、ネーミングどおりしゃぶしゃぶのお肉を鉄板焼きで少し炙ってゴマだれで食べるという趣向のようです。出てきたお肉を見て「参ったな・・・・」と思いました。
私もお肉のプロです。見ただけで、だいたいの味がわかります。しゃぶしゃぶ用の薄切肉が凍ったまま出てきました。これでは、いくら上手に焼いても薄すぎて肉汁がとんでしまい、タレの味しかしません。また、鉄板にひっついて上手に焼くことすら困難です。
ゴマだれが美味しいのと、お店の雰囲気でお客様は満足しているようですが、当店のような田舎の焼肉屋ではすぐに美味しくないちお客様に見抜かれてしまいます。
少しがっかりしましたが、参考になりそうなこともたくさん有りましたので、そそくさと水巻町に帰りました。深夜に店に着き、早速スライサーでいろいろの厚さに肉を切って、"おんどる流・焼きしゃぶ"を作ってみました。少し厚切りにすると上手くいくかもしれないという感触を得ましたが、「このままでは普通の焼肉と変わらないな・・・」と思い、がっかりして床についたことを今でもはっきり覚えています。
しかし、東京まで日帰り出張をして何もつかまなかった訳ではありません。確かに当店でそのままの形で出すわけにはいきませんが、他のお客様の様子を見ていると皆さんお行儀良く一枚ずつ最後まで丁寧に焼いていましたし、また途中でだれることなく楽しくお食事を楽しまれておりました。これは当店のような田舎の焼肉屋ではなかなかないことです。
同じ肉でも、和食になるとちょっと違ってくるのだと感じました。この時点で決定的な発見はありませんでしたが、感じた事が「工夫次第で新しいものになるのではないかな・・」とぼんやりとした答えが見えたような気がしました。
それからはずっと、ぼんやり見えた答えを形にしようと試行錯誤を繰り返し、寝ても覚めてもそのことばかりを考えていました。人に会う度、焼きしゃぶの話をして知恵を借りようとしていました。あまり同じ話を繰り返すもので家族も呆れていたようです。